ご覧の有様・・・

「他のソフト」との比較広告で自社ソフトの優秀さをアピールする、
ジャストシステムの漢字変換ソフト「ATOK」というものがある。
「他のソフト」だと誤変換される言葉も、ATOKだと「正しく変換される」
というのが、うたい文句である。
しかし、果たしてATOKはそれだけの実力を持っているのであろうか?

また、ATOKは「進化した」ことも謳っている。
それは本当なのか?また、どの程度の進化なのか?

以上の疑問を解決すべく、私は「マイコン1985年12月号」(電波新聞社)
の、初代一太郎などに関する記事を参考にしつつ、ATOKの実力を
実験してみることにした。

実験の方法
【例文】として挙げた文章を、一行ごとに一括変換する。
使用したソフトは、ATOK11(あまり使用していない
ウィンドウズ版と使い込んだマック版の両方。但しほとんど全く差が
なかったのでウィンドウズ版の結果のみ表示した)、「他のソフト」
(MS-IME97、ウィンドウズ標準)、ことえり2(MacOS標準の最新版)、
使い込んだシャープX68000の標準日本語FEP(ASK-68K Ver2.0)
(ただし、これについては結果を表示していない)。
また、前掲記事から初代一太郎の変換結果も引用した。
なお、例文は同記事のものを孫引きした。
#注意:この実験は私のマシン環境、使用状況に影響を受けており、
#   あくまでも参考資料にすぎないことをご了承願いたい。


【例文1】
古代武蔵野が鬱蒼たる原生林に蔽われていた頃、
また降っては広漠たる荒野と化して、
渇いた旅人が斃死した頃も、
斜面一帯はこの豊かな湧き水のために、
常に人に住まわれていた。

   (大岡昇平作「武蔵野夫人」より)


十数年前、パソコンの黎明期に、まぁよくこんな難題を
試したものだと感心するような例文である。
ちなみに「斃死(へいし)・・たおれ死ぬこと。のたれじに。(広辞苑)」
だそうだが、「へいし」で旅人が死んだ変換ソフトはただ一つ、
X68000用標準日本語FEPだけだった。
しかも、旅人は「屁縊死」した・・・。

【ATOK11】
古代武蔵野が鬱蒼たる原生林に覆われていた頃、
また降っては広漠たる広野と貸して、
乾いた旅人が閉止した衣、
斜面一帯はこの豊かなわき水のために、
常に人に住まわれていた。

完璧とは言わないが、さすが比較広告をするだけのことはある。
太字にした部分の他は、誤変換とはいえないだろう。
ただ、次との絡みで、3行目の誤変換には注目していただきたい。

【他のソフト】
小台武蔵野がうっそうたる原生林に覆われていたころ、
また振っては広漠たる広野と課して、
乾いた旅人が閉止した衣、
斜面一帯はこの豊かな湧き水のために、
常に人に住まわれていた。

やはりちょっと負けている。比較広告も、あながち嘘ではないらしい。
ただ、3行目を見ていただきたい。
両者とも全く同じ間違いを犯しているのである。
「斃死」が両者にとってネックとなったのだろうが、それを
間違えた後の変換が全く同じと言うことは、日本語変換ソフトの
性能の限界を示唆しているのかも知れない。
ちなみに、13年前の初代一太郎だと、「ご覧の有り様」。

【初代一太郎】
古代武蔵野がうっそうたるげんせいりんにおおわれていたころ
又降っては広漠足る広野とかし、(ママ)
河合多々微々と画へい獅子田ころも、
斜面一帯はこの豊かなわき水のために、
常に人に須磨割れていた。

なお、「河合多々微々」というのは、当時の一太郎の売りで、
日本語に多い複合語(たとえば「国鉄清算事業団」や「太陽神戸
三井銀行」など)を推論する機能によるものと思われる。
当時としては複合語の正解率が高く、評判も良かったらしいが、
間違った複合語を生み出してしまうと、悲惨な変換にもなるのである。
やはり、現在の水準からすると隔世の感があることは否めないだろう。

【ことえり2】
小台武蔵野がうっそうたる原生林に覆われていた頃、
また振っては行麦たる荒野とかして、
乾いた旅人が閉止した頃も、
斜面一体は子の豊かなわき水のために、
常に人にすまわれていた。

マック標準日本語ソフトの最新版である。
i-Macを買っても、標準で付いてくるのはこれのはずだ。
で、肝心の変換効率だが・・・・
あれっ、10年以上前の一太郎と大差ないのでは・・・^^;;;


【例文2】
臨時教育審議会の岡本道雄会長は
深刻化する生徒・児童の「いじめ」について
「社会全体の対応を望む」という談話を
発表したが、もし放送小学校、
放送中学校が出来れば、いじめられっ子も自宅で
安心して勉強が出来る。

  (電波新聞「ミリ波」より)

今度は、見るからに一般的な文章なので、どのソフトでも
高変換効率が期待できそうだ。

【ATOK11】
臨時教育審議会の岡本道夫会長は
深刻化する生徒・自動の「いじめ」について
「社会全体の対応を望む」という談話を
発表したが、もし放送小学校、
放送中学校ができれば、いじめられっも自宅で
安心して勉強ができる。

これは、ほぼ完璧と言っていいだろう。下手に私が
手書きするよりも、漢字変換の正解率が高いかも知れない。

【他のソフト】
臨時教育審議会の岡本道夫会長は
深刻化する生徒・自動の「いじめ」に漬いて
「社会全体の対応を望む」という談話を
発表したが、もし放送小学校、
放送中学校ができれば、いじめられっも自宅で
安心して勉強ができる。

こちらもなかなか変換効率は高いが、「付いて」ならまだしも
「漬いて」という変換はちょっと理解できない。
開発者が、よほど漬け物好きなのであろうか。

【ことえり2】
臨時教育審議会の岡元道夫会長は
深刻化する生徒・自動の「いじめ」ついて
「社会全体の対応を望む」と言う談話を
発表したが、もし放送小学校、
放送中学校ができれば、虐められっも自宅で
安心して勉強ができる。

この文章では理解しがたい誤変換はないものの、やはり
ウィンドウズのソフトに比べると見劣りがする観は
否定できないだろう。もしかすると、アップルは日本語
入力ソフトに余りやる気がないのかも知れない。

ところで、初代一太郎だと「ご覧の有り様」。

【初代一太郎】
臨時驚異苦心議会の岡本道雄か胃腸
申告化する生徒・自動の「苛め」について
「社会全体の対応を望む」と言う談話を
発表したが、燃し放送小学校、
放送中学校ができれば、苛められっじたく
安心して勉強ができる。


「臨時驚異苦心議会」、先述の複合語推論機能の端的な副作用である。
学校が燃えたり、教育審議が驚異的に苦心したりで、この議会の
岡本さんもさぞや胃腸が痛かったことであろう・・・

しかし、この状況から現在の状況にまでATOKを進化させるとは、
ジャストシステム侮り難し!!

結局、このテストで判ったのは、一太郎は十数年の間に随分進化したこと、
比較広告をうつだけの実力はありそうなことと、ジャストシステムの
良いところばかり、そしてそれに対するアップルの不甲斐なさであった。

私は、改めてATOKの強さを実感し、これからも使い続けようと思った。
だから、マックユーザーを見捨てないで下さいね、ジャストシステムさん!

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